無人販売という店舗形態を考える
コロナ禍に於いて増えた無人販売のお店。古くは、野菜を畑の近くで陳列して料金箱を置くというスタイル。近年、冷凍技術が進み、焼肉、餃子、だけにとどまらず、ラーメンなどの食材のお店も増えてきました。人を介せずに支払いができるので、コロナ禍では感染防止対策として注目を集めていました。
しかし、毎日のように無人販売店舗での盗難被害が記事になっています。
有人店舗での万引きの場合は、お金に困っているわけではなく、スリルを味わいたいという理由で犯行に至るケースもあります。ニュースになっている無人店舗での万引きは、お金がなくて盗んだという人が圧倒的に多いように感じます。
お金がないけど、お腹がすいた。美味しそうな食べ物が置いてあるが、誰もいないお店。つい出来心で盗んでしまう。
といったところでしょう。最初は悪いと思っていても捕まらないと、ついつい盗んでしまう。どんどんエスカレートし盗む商品が増えてくる、といった流れになっているような気がします。
人間の欲求には5段階あるとアメリカの心理学者マズローが提唱しています。いわゆる「マズローの法則」です。
この欲求はピラミッド型を形成しており、第1が「生理的欲求」次いで「安全欲求」「社会的欲求」「承認(尊敬」
「自己実現の欲求」の順となっています。「生理的欲求」は生きていくために必要な欲求で、三大欲求(食欲、睡眠欲、性欲)
です。
基本的には、それぞれの欲求が満たされると、次の段階に欲が出てきます。
お腹がすいたという生理的欲求が満たされると、次に、身体的安全、経済的安定、健康などなど、身の回りの安全を確保したいという欲求が出てきます。
金品を盗むのではなく、食品に手をかけるという犯罪は、生理的欲求を満たすために行われているもので、その他の窃盗と質が違うもののような気がします。この手の犯罪をなくすには、「生理的欲求」が満たされた状態にすることです。
と、言っても、お腹がすいていない人がお店に来ても商品を購入することはありません。お金を支払って食べ物を手に入れることができる
人だけをお店に入れるという必要があります。そうでなければ、「気が向いた人だけお金を払ってください」といっているのと同じことになってしまいます。
24時間商品が手に入る無人店舗は、利便性を追求するあまり、安全性の補完ができていません。
店員がいることで、「お金を払わなければならない」という当たり前のことに疑問を持つ人はいません。誰も見ていないということで自制心のタガが外れてしまうものです。
犯罪企図者と、盗難対象物、抑止力のある監視者の不在。この三つが同一空間、同一時間に発生すると犯罪が行われるというのが、防犯環境設計の考え方です。
防犯カメラがこれだけ設置され、ニュースにも映像が流れているのにもかかわらず、一向に盗難は収まりません。最近では自動追尾という機能を持った、人が動くとその向きにカメラが回転するような、いわゆるAIカメラが付いていることを認識したにもかかわらず、盗難が発生したという事件もありました。
と、いうことは、防犯カメラだけでは「抑止力のある監視者」にはなり得ないということです。
ということは、お店に入る前に会員登録をして、電子マネーで精算をする仕組みでないと、店舗の運営は難しいのではないでしょうか。ただし、そうなると、わざわざ店舗に行かなくても、宅配やサービスや、ネットショッピングで事足りてしまいます。
いずれにしても、無人販売店舗というのは、経費削減したいという店舗側の思惑が大きく、利用者としてもメリットがあまり感じられないと思ってしまいます。
また、どひえもんという冷凍食品用の自販機の登場で、なお一層運営が難しくなると思います。
コロナ禍という今までなかった特殊な時期に、外食ができないとう不満を満たすための策で、急速に店舗が増加したのは理解できます。しかし、コロナが明け、外食も自由になった今、この無人店舗という形式はニーズが減ってきていると言えます。
農家の方が、少々形が悪く、市場に出回らないので、畑の横に並べて販売する形式は、捨てるのはもったいないので、食べてもらった方がいいだろう、という発想のもとから生まれたものだと聞きます。
結論、そういった食材でなければ、難しいのではないかと思います。